1Q84ニュース
村上春樹ロングインタビュー
「考える人」2010年夏号が発売になりました。今号の特集は「村上春樹ロングインタビュー」。この号をさいごに新潮社を退職した編集長の松家仁之が、村上さんに、二泊三日にわたってお話をうかがいました。BOOK3刊行後はじめてのインタビューにして、1979年の村上さんの作家デビュー以来、最長のロングインタビューです。『1Q84』にまつわるお話はもちろん、芦屋での少年時代から三十年におよぶ作家活動まで、村上さんはほんとうに率直に語ってくださっています。ふだんの料理のコツや、よく聴く音楽、ずっと変わらない「弱点」についても。――ぜひ、書店でお手にとってごらんください。
(出版部SR)
期間限定サイト
新潮社の村上春樹さん関連の期間限定サイトは、これまでにも二つありました。今日はその一つ、2005年に開設され九ヶ月続けられた「村上モトクラシ」の管理人に登場してもらいます。「当時のサイト管理人をしていたマツモトです。あれから5年、今は出版部でSさんの斜め後ろの席に座って仕事をしています。
『1Q84 BOOK1』を開いてすぐ目に入ってくるのが、“It's Only a Paper Moon”の歌詞の一部。コマーシャルやテレビ番組のオープニングでも使われていますしどなたでも一度は耳にしたことがあるかと思います。
ジャズの名曲という印象が強かったのですが、もともとは1932年上演の演劇作品のために書かれた曲だそうです。80年近く前の曲なんですね。作曲は“Over the Rainbow”も手がけたハロルド・アレン。
『1Q84』には載らなかった歌詞の冒頭部分は
“ボール紙の海の上にかかった紙の月でも、僕/私のことを信じてくれれば本物になる……”
きゃー。非常にロマンティックな詞です。現実にこんなことを言っている方がいたらぶはっと噴いてしまうところですが、歌として聴くとうっとりしてしまうのが音楽の素晴らしさです。
個人的にはナット・キング・コールが歌ったバージョンが最も心に残っていますが、帝王マイルスも録音を遺しているのでした。ちょっと意外。
さて、「村上モトクラシ」はもともと刊行情報サイトとして開設されたのですが、「村上モトクラシ大調査」と銘打って、ほぼ毎週村上春樹さんの作品に関するアンケート調査を行っていました。毎度項目を考えるのに苦労したのも懐かしいことです。
この大調査、実はいまでも「はてな」サイト上でアンケート結果を見ることができます。
この中にひとつだけ、村上春樹さん御本人出題のアンケート調査があるので紹介しますね。
【村上モトクラシ大調査】
村上春樹さん(本人)からの出題です。村上作品を、『ノルウェイの森』の前と後に分けると、あなたはどちらが好きですか?
このアンケートの回答募集は既に終了していますが、『1Q84』が刊行されたいま、あなたの回答はどちらでしょう……。」
拳銃談義・その2
文庫編集部Eの拳銃談義の続きです。
E「その、会社に名前を残せなかったザイデルさんが設計したHK4が、ヘックラー・ウント・コッホ社が最初に手がけた拳銃です。もともと戦前のモーゼル社のヒット製品であった自動拳銃HScをベースに開発され、1968年に世に送られました。銃口からグリップの端までの全長が16センチ弱、銃本体の重量が500グラム弱。アメリカ軍が長く使っていたコルトM1911、いわゆる「コルト・ガバメント」の全長が21センチ強、重量が約1キロであることを考えると、小ぶりでいかにもヨーロッパ的な自動拳銃といえるでしょう。このモデルの最大の特長は、そのHK4という名が表すように、銃身の交換により4種類の口径の弾丸が使用できるという点でした。4種類の弾丸が使えるメリットというのは、拳銃所持が難しい日本人にとってはなかなか実感しにくいものですが、ユニークな特長が好評を博してかロングセラーとなりました。西ドイツ(当時)国内の警察に採用されたほか、アメリカにも輸出されたようです。
『1Q84』では、タマルは青豆に「ドイツ製で、重さは弾丸抜きで480グラム。小型軽量だがショート九ミリ弾の威力は大きい。そして反動も少ない。長い距離での命中精度は期待できないが、あんたの考えてる使用目的には合っている」と説明しています。とすると青豆のHK4は、使用可能な4種類のうちの最大口径である9ミリショート(.380ACP)弾を発射できる銃身が選択されていたことになります。さらにタマルは、この拳銃は手入れの行き届いた中古品であり、「銃は自動車と同じで、まったくの新品より程度の良い中古品の方がむしろ信頼できる」と説明。さらに警察の摘発を受けた場合を想定して、供述すべき拳銃の入手方法まで青豆に指示します。
そして1984年。こうした天吾と青豆(そしてタマル)の物語が進行しているその年に、HK4は17年に及んだ製造に終止符を打ったのでした。」
S「なるほど、1984年にはそんなドラマもあったわけですね。ところでEさんはHK4を撃ったことある?」
E「残念ながらありません。機会があれば、撃たなくてもいいから、いじってみたいですね。マガジンを着脱したりとか。」
S「しかしよっぽど拳銃が好きなんですね。この拳銃だったら撃たれて死んでもいいくらい好きな機種ってある?」
E「あるわけないでしょう。でもこれだけは勘弁してほしいという弾丸はありますよ。体内で弾頭が広がってダメージを増大させる、ホローポイント弾とかソフトポイント弾はなるべく避けたい。それだったら、きれいに貫通してくれるフルメタルジャケット弾が望ましいですね。」
S「覚えておきましょう。」
E「はは。でも本当は、撃つのは好きじゃないんです。なぜかというと、鼓膜が弱いせいなのか、あの発射音に耐えられない。1発撃つと2、3日は難聴になるんですから。いつだったか、アリゾナ州の砂漠の真ん中で試し撃ちした時、イヤー・プロテクターをつけようとしたら、ガイドのカウボーイにこの軟弱者!と罵られたしなあ。」
S「マニアにはマニアの苦労がある、ということか。」
E「その、会社に名前を残せなかったザイデルさんが設計したHK4が、ヘックラー・ウント・コッホ社が最初に手がけた拳銃です。もともと戦前のモーゼル社のヒット製品であった自動拳銃HScをベースに開発され、1968年に世に送られました。銃口からグリップの端までの全長が16センチ弱、銃本体の重量が500グラム弱。アメリカ軍が長く使っていたコルトM1911、いわゆる「コルト・ガバメント」の全長が21センチ強、重量が約1キロであることを考えると、小ぶりでいかにもヨーロッパ的な自動拳銃といえるでしょう。このモデルの最大の特長は、そのHK4という名が表すように、銃身の交換により4種類の口径の弾丸が使用できるという点でした。4種類の弾丸が使えるメリットというのは、拳銃所持が難しい日本人にとってはなかなか実感しにくいものですが、ユニークな特長が好評を博してかロングセラーとなりました。西ドイツ(当時)国内の警察に採用されたほか、アメリカにも輸出されたようです。
『1Q84』では、タマルは青豆に「ドイツ製で、重さは弾丸抜きで480グラム。小型軽量だがショート九ミリ弾の威力は大きい。そして反動も少ない。長い距離での命中精度は期待できないが、あんたの考えてる使用目的には合っている」と説明しています。とすると青豆のHK4は、使用可能な4種類のうちの最大口径である9ミリショート(.380ACP)弾を発射できる銃身が選択されていたことになります。さらにタマルは、この拳銃は手入れの行き届いた中古品であり、「銃は自動車と同じで、まったくの新品より程度の良い中古品の方がむしろ信頼できる」と説明。さらに警察の摘発を受けた場合を想定して、供述すべき拳銃の入手方法まで青豆に指示します。
そして1984年。こうした天吾と青豆(そしてタマル)の物語が進行しているその年に、HK4は17年に及んだ製造に終止符を打ったのでした。」
S「なるほど、1984年にはそんなドラマもあったわけですね。ところでEさんはHK4を撃ったことある?」
E「残念ながらありません。機会があれば、撃たなくてもいいから、いじってみたいですね。マガジンを着脱したりとか。」
S「しかしよっぽど拳銃が好きなんですね。この拳銃だったら撃たれて死んでもいいくらい好きな機種ってある?」
E「あるわけないでしょう。でもこれだけは勘弁してほしいという弾丸はありますよ。体内で弾頭が広がってダメージを増大させる、ホローポイント弾とかソフトポイント弾はなるべく避けたい。それだったら、きれいに貫通してくれるフルメタルジャケット弾が望ましいですね。」
S「覚えておきましょう。」
E「はは。でも本当は、撃つのは好きじゃないんです。なぜかというと、鼓膜が弱いせいなのか、あの発射音に耐えられない。1発撃つと2、3日は難聴になるんですから。いつだったか、アリゾナ州の砂漠の真ん中で試し撃ちした時、イヤー・プロテクターをつけようとしたら、ガイドのカウボーイにこの軟弱者!と罵られたしなあ。」
S「マニアにはマニアの苦労がある、ということか。」
拳銃談義・その1
出版部Sです。新潮社にはさまざまな趣味を持ったスタッフがいます。中でも文庫編集部のEは、自他共に認める拳銃マニア。今回はそのEからのメッセージをお届けします。
文庫編集部Eです。『1Q84』には、重要な役割を担うさまざまなツールが登場します。なかでも印象的なのが、青豆がタマルに依頼して入手したHeckler & Koch HK4。そう、Book 2の23章のラスト、渋滞中の首都高の上で、青豆がある行動に出た際に手にしていた、あの拳銃です。
拳銃といえば、過去の村上作品でも、やはり極めて重要な場面に登場していたことを思い出します。たとえば『ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―』の終章近く、シベリアの収容所の支配者である「皮剥ぎボリス」を間宮中尉が射殺しようと試みた際、ボリスから奪って引き金を引いたのが、ドイツ製のワルサーPPKでした。与えられた2発の実弾を片手で装填し、ボリスに向けて発射する場面の緊迫感は、多くの読者の記憶に残っていることでしょう。ボリスがナチ親衛隊の将校から奪ったというPPKは、いわゆる大型のゴツい軍用拳銃ではなく、洗練された外観を持つ小型の自動拳銃です。その名のPPK(Polizei/Pistole/Kurz=Police/Pistol/Short)が表すように、元々は私服警察官による使用を想定して開発されたもので、「007」シリーズのジェイムズ・ボンドの愛用銃としても有名です。
さて、それでは今回のHeckler & Koch HK4とはどんな拳銃なのか。まずその製造元からたどってみましょう。先のワルサーは一般にもよく知られたメーカーですが、Heckler & Kochとなるとそうはいかない。だいたい何と発音するのか分からない。『1Q84』には、当然ながらちゃんと書いてあります。「ヘックラー・ウント・コッホ」。一般の方は「聞いたこともない」とおっしゃるかもしれませんが、第二次大戦以降の銃器に関心を持つマニアはおそらく100パーセント知っている、ドイツの有力メーカーです。拳銃だけでなく、世界各国の軍に広く採用されたアサルトライフルG3の開発でも知られており、最近の例でいえば2007年、ミャンマーで日本人ジャーナリスト長井健司さんが射殺された際に、治安部隊が使用していたのもこのG3(のライセンス生産品)でした。
ワルサーと同じく第二次大戦以前から知られたドイツの銃器メーカーに、モーゼルという会社がありました。本来は「マウザー」と発音するらしいのですが、子供のころにおもちゃのピストルで遊んだ世代には、なじみ深い存在でしょう。そのモーゼルが戦後解体された際に、独立した技術者が設立したのがヘックラー・ウント・コッホでした。エトムント・ヘックラー氏とテオドール・コッホ氏、そしてもう1人、アレックス・ザイデル氏の3人で作ったから、ヘックラー・ウント・コッホ。
S「あれ? ヘックラーさんとコッホさんは拳銃会社の名前になってるのに、ザイデルさんの名前がついてないみたいだけど……。」
E「い、いい質問ですね(汗)。ザイデルさんは謙虚な人だったので、おれはいいよと遠慮したんじゃないかろうかと」
S「……。この項、次回に続きます。」
文庫編集部Eです。『1Q84』には、重要な役割を担うさまざまなツールが登場します。なかでも印象的なのが、青豆がタマルに依頼して入手したHeckler & Koch HK4。そう、Book 2の23章のラスト、渋滞中の首都高の上で、青豆がある行動に出た際に手にしていた、あの拳銃です。
拳銃といえば、過去の村上作品でも、やはり極めて重要な場面に登場していたことを思い出します。たとえば『ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―』の終章近く、シベリアの収容所の支配者である「皮剥ぎボリス」を間宮中尉が射殺しようと試みた際、ボリスから奪って引き金を引いたのが、ドイツ製のワルサーPPKでした。与えられた2発の実弾を片手で装填し、ボリスに向けて発射する場面の緊迫感は、多くの読者の記憶に残っていることでしょう。ボリスがナチ親衛隊の将校から奪ったというPPKは、いわゆる大型のゴツい軍用拳銃ではなく、洗練された外観を持つ小型の自動拳銃です。その名のPPK(Polizei/Pistole/Kurz=Police/Pistol/Short)が表すように、元々は私服警察官による使用を想定して開発されたもので、「007」シリーズのジェイムズ・ボンドの愛用銃としても有名です。
さて、それでは今回のHeckler & Koch HK4とはどんな拳銃なのか。まずその製造元からたどってみましょう。先のワルサーは一般にもよく知られたメーカーですが、Heckler & Kochとなるとそうはいかない。だいたい何と発音するのか分からない。『1Q84』には、当然ながらちゃんと書いてあります。「ヘックラー・ウント・コッホ」。一般の方は「聞いたこともない」とおっしゃるかもしれませんが、第二次大戦以降の銃器に関心を持つマニアはおそらく100パーセント知っている、ドイツの有力メーカーです。拳銃だけでなく、世界各国の軍に広く採用されたアサルトライフルG3の開発でも知られており、最近の例でいえば2007年、ミャンマーで日本人ジャーナリスト長井健司さんが射殺された際に、治安部隊が使用していたのもこのG3(のライセンス生産品)でした。
ワルサーと同じく第二次大戦以前から知られたドイツの銃器メーカーに、モーゼルという会社がありました。本来は「マウザー」と発音するらしいのですが、子供のころにおもちゃのピストルで遊んだ世代には、なじみ深い存在でしょう。そのモーゼルが戦後解体された際に、独立した技術者が設立したのがヘックラー・ウント・コッホでした。エトムント・ヘックラー氏とテオドール・コッホ氏、そしてもう1人、アレックス・ザイデル氏の3人で作ったから、ヘックラー・ウント・コッホ。
S「あれ? ヘックラーさんとコッホさんは拳銃会社の名前になってるのに、ザイデルさんの名前がついてないみたいだけど……。」
E「い、いい質問ですね(汗)。ザイデルさんは謙虚な人だったので、おれはいいよと遠慮したんじゃないかろうかと」
S「……。この項、次回に続きます。」
新潮文庫の100冊
新潮文庫Tです。梅雨が明ければ、夏。「新潮文庫の100冊」の季節です。今年もたくさんの小説・エッセイがラインナップされ、楽しい小冊子もできました。
6月1日から期間限定のTwitter(http://twitter.com/shinchobunko)もはじまり、6月26日から恒例の特設サイトもオープンします!春樹さんの小説は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(新装版)』と『海辺のカフカ』が入っています。『世界……』は、落田洋子さんの装画・街の地図で、単行本とはちょっとちがうテイストが楽しめますよ。
(文庫編集部T)
