1Q84ニュース

拳銃談義・その2

文庫編集部Eの拳銃談義の続きです。

「その、会社に名前を残せなかったザイデルさんが設計したHK4が、ヘックラー・ウント・コッホ社が最初に手がけた拳銃です。もともと戦前のモーゼル社のヒット製品であった自動拳銃HScをベースに開発され、1968年に世に送られました。銃口からグリップの端までの全長が16センチ弱、銃本体の重量が500グラム弱。アメリカ軍が長く使っていたコルトM1911、いわゆる「コルト・ガバメント」の全長が21センチ強、重量が約1キロであることを考えると、小ぶりでいかにもヨーロッパ的な自動拳銃といえるでしょう。このモデルの最大の特長は、そのHK4という名が表すように、銃身の交換により4種類の口径の弾丸が使用できるという点でした。4種類の弾丸が使えるメリットというのは、拳銃所持が難しい日本人にとってはなかなか実感しにくいものですが、ユニークな特長が好評を博してかロングセラーとなりました。西ドイツ(当時)国内の警察に採用されたほか、アメリカにも輸出されたようです。

『1Q84』では、タマルは青豆に「ドイツ製で、重さは弾丸抜きで480グラム。小型軽量だがショート九ミリ弾の威力は大きい。そして反動も少ない。長い距離での命中精度は期待できないが、あんたの考えてる使用目的には合っている」と説明しています。とすると青豆のHK4は、使用可能な4種類のうちの最大口径である9ミリショート(.380ACP)弾を発射できる銃身が選択されていたことになります。さらにタマルは、この拳銃は手入れの行き届いた中古品であり、「銃は自動車と同じで、まったくの新品より程度の良い中古品の方がむしろ信頼できる」と説明。さらに警察の摘発を受けた場合を想定して、供述すべき拳銃の入手方法まで青豆に指示します。

 そして1984年。こうした天吾と青豆(そしてタマル)の物語が進行しているその年に、HK4は17年に及んだ製造に終止符を打ったのでした。」

「なるほど、1984年にはそんなドラマもあったわけですね。ところでEさんはHK4を撃ったことある?」
「残念ながらありません。機会があれば、撃たなくてもいいから、いじってみたいですね。マガジンを着脱したりとか。」
「しかしよっぽど拳銃が好きなんですね。この拳銃だったら撃たれて死んでもいいくらい好きな機種ってある?」
「あるわけないでしょう。でもこれだけは勘弁してほしいという弾丸はありますよ。体内で弾頭が広がってダメージを増大させる、ホローポイント弾とかソフトポイント弾はなるべく避けたい。それだったら、きれいに貫通してくれるフルメタルジャケット弾が望ましいですね。」
「覚えておきましょう。」
「はは。でも本当は、撃つのは好きじゃないんです。なぜかというと、鼓膜が弱いせいなのか、あの発射音に耐えられない。1発撃つと2、3日は難聴になるんですから。いつだったか、アリゾナ州の砂漠の真ん中で試し撃ちした時、イヤー・プロテクターをつけようとしたら、ガイドのカウボーイにこの軟弱者!と罵られたしなあ。」
「マニアにはマニアの苦労がある、ということか。」

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